
東京都大田区田園調布1-61-10
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休診日:月曜 ※日・祝日診療可 ※完全予約制
1.いつもの「かゆみ」とは違う、危険なサイン
愛犬や愛猫が耳を振ったり、後ろ足で耳を掻いたりする姿は、見慣れた光景かもしれません。多くの場合、それは外耳炎という耳の入り口付近の炎症が原因です。
しかし、その症状が「かゆみ」の範疇を超え、「頭を傾ける」「まっすぐ歩けない」といった神経症状に発展した場合、それは耳の奥深く、中耳や内耳にまで炎症が及んでいる中耳炎・内耳炎のサインかもしれません。
中耳炎や内耳炎は、単なる皮膚病ではなく、平衡感覚や聴覚を司る重要な器官の病気です。放置すると、重篤な神経症状や永続的な障害につながる恐れがあります。
見過ごされがちな中耳炎・内耳炎の初期症状、確定診断の重要性、そして治療法について詳しく解説します。
2.耳の構造を知る:外耳・中耳・内耳の違い
中耳炎・内耳炎の恐ろしさを理解するためには、まず耳の構造を理解することが重要です。耳は大きく分けて3つの部分から成り立っています。
| 部位 | 構造 | 主な機能 | 関連する主な病気 |
| 外耳 | 耳介から鼓膜までの耳道 | 音を集める | 外耳炎(最も一般的) |
| 中耳 | 鼓膜の奥にある空洞(鼓室胞) | 音を増幅し内耳に伝える | 中耳炎 |
| 内耳 | 蝸牛(聴覚)と前庭(平衡感覚) | 聴覚と平衡感覚を司る | 内耳炎、前庭疾患 |
外耳炎から中耳炎への進行
犬や猫の中耳炎のほとんどは、慢性的な外耳炎が原因で起こります。
外耳炎が長期間続くと、耳道の炎症や感染が鼓膜を破り、その奥にある中耳の空洞(鼓室胞)にまで広がってしまいます。中耳は骨に囲まれているため、一度炎症が起こると薬が届きにくく、治りにくいのが特徴です。
内耳炎の重篤な影響
さらに炎症が奥の内耳にまで及ぶと、内耳にある前庭(ぜんてい)という平衡感覚を司る器官が障害を受けます。これが内耳炎であり、重篤な神経症状を引き起こす原因となります。
3.見逃してはいけない!中耳炎・内耳炎のサイン
中耳炎・内耳炎の症状は、耳の痛みや外耳炎の症状に加えて、神経症状が現れることが最大の特徴です。
中耳炎で現れる可能性のある症状
中耳炎は、外耳炎の症状に隠れて見過ごされがちですが、以下のようなサインが見られます。
内耳炎で現れる「恐ろしいサイン」(前庭疾患)
内耳炎が起こると、平衡感覚を失い、以下のような前庭疾患の症状が現れます。
| 症状 | 説明 | |
| 斜頚 | 頭が常に片側に傾いた状態になる。 | |
| 旋回運動 | 常に同じ方向にぐるぐる回るように歩く。 | |
| 眼振 | 意思とは関係なく眼球が小刻みに揺れる。 | |
| 運動失調 | まっすぐ歩けず、立とうとしても倒れてしまう。 | |
| 嘔吐 | 平衡感覚の異常による乗り物酔いのような状態。 |
これらの症状は、「かゆいから頭を振っている」というレベルではなく、「平衡感覚が麻痺している」状態を示しています。特に急に発症した場合、飼い主様は脳の病気ではないかと非常に心配されますが、内耳炎が原因の前庭疾患の可能性が高いです。
4.なぜCT・MRIが必要なのか
「耳の病気なら、耳を覗けばわかるのでは?」と思われるかもしれませんが、中耳炎・内耳炎の診断は簡単ではありません。
・鼓膜の奥は「見えない」
外耳炎の診断に使われる耳鏡(オトスコープ)では、鼓膜の奥にある中耳や内耳を直接観察することはできません。また、中耳の炎症は骨に囲まれた空洞内で起こるため、通常のレントゲン検査でも詳細な状態を把握するのは困難です。
・確定診断に必要なCT・MRI検査
中耳炎・内耳炎の確定診断と、炎症の広がり、そして治療方針を決定するために最も重要なのが、CTやMRIといった画像診断です。
| 検査方法 | 特徴 | 診断における役割 |
| CT検査 | 骨の構造(鼓室胞)の評価 | 中耳炎による鼓室胞内の液貯留や骨の肥厚を明確に捉える。 |
| MRI検査 | 軟部組織(神経、脳)の評価 | 内耳や脳への炎症の波及、腫瘍の有無などを確認する。 |
| オトスコープ | 鼓膜の状態を詳細に観察 | 鼓膜の穿孔や中耳からの排泄物の有無を確認し、中耳洗浄に用いる。 |
※特に、短頭種(フレンチブルドッグ、パグなど)は、生まれつき耳道が狭く、中耳炎を併発しやすい傾向があるため、CT検査による診断が強く推奨されます。
5.治療と予後:長期的なアプローチが必要
中耳炎・内耳炎の治療は、外耳炎に比べて長期にわたる長期的なアプローチが必要です。
治療の基本
外科的治療
内科治療に反応しない慢性的な中耳炎や、鼓室胞内にポリープや腫瘍が疑われる場合は、鼓室胞切開術といった外科手術が必要になることがあります。これは、鼓室胞の骨の一部を開けて、内部の炎症産物や病変を直接除去する手術です。
予後について
中耳炎・内耳炎は、早期に適切な診断と治療を行えば、多くの場合、命に関わることはありません。しかし、内耳炎による神経症状(斜頚、ふらつき)は、炎症が治まっても完全に元に戻らないことがあります。
重要なのは、「耳を振る」という初期サインを見逃さず、「頭を傾ける」いう神経症状が現れたら、画像診断を検討することです。
6.まとめ
「耳を振る、頭を傾ける」という行動は、単なるかゆみではなく、中耳炎・内耳炎という深刻な病気のサインである可能性があります。
特に、慢性的な外耳炎を繰り返している、あるいは急に平衡感覚を失ったような症状が見られた場合は、単なる耳の洗浄や点耳薬の治療では不十分です。
CTやMRIによる正確な診断の重要性を理解し、専門的な治療を受けられる獣医師に相談することも検討しましょう。
皮膚と耳専門 ヒフカフェ動物病院
獣医師 小林真也
食物アレルギーが痒みの原因??
治らないかゆみの原因とは?
愛犬や愛猫が、体を掻きむしる姿を見るのは本当につらいと思います。動物病院で「アレルギーかもしれません」と言われ、アレルギー検査を受けた経験のある飼い主様も多いのではないでしょうか。
残念ながら、「検査結果=食物アレルギーの確定」ではないという事実も知っておく必要があります。
動物の皮膚科・耳科を専門とする獣医師の視点から、食物アレルギーの診断における血液検査の限界と、信頼性の高い診断法である「除去食試験」の重要性について、詳しく解説します。
「食物アレルギー」の定義と症状
皮膚病の原因は一つではない
犬や猫の皮膚病の原因は多岐にわたります。
1.アトピー性皮膚炎(環境アレルゲン):花粉、ハウスダストマイトなど、環境中の物質に対するアレルギー。
2.ノミ・ダニ:ノミの唾液や疥癬などの外部寄生虫によるアレルギーや皮膚炎。
3.細菌・真菌感染:マラセチアやブドウ球菌などによる感染症。
4.食物アレルギー:特定の食べ物に含まれるタンパク質に対する免疫の過剰反応。
食物アレルギーが原因で皮膚炎を起こしているケースは、皮膚病全体の約10%程度と言われています。つまり、食物アレルギーを疑う前に、他の原因(特にアトピーや感染症)をしっかりと除外することが重要です。
食物アレルギーの主な症状
食物アレルギーの症状は、主に強いかゆみとして現れます。
アレルギー検査の実際
当院で行う、食物アレルギーの血液検査は、特定の食材に対するアレルゲン特異的IgE抗体(I型アレルギー)とリンパ球反応試験(Ⅳ型アレルギー)を測定するものです。
アレルギー検査が「確定診断」にならない理由
・検査で「陽性」と出た食材でも、実際に食べさせても症状が出ない動物は多くいます。これは、免疫システムがその食材を認識(感作)しているだけで、過剰な反応(アレルギー)を起こしていないためです。
・検査結果だけで陽性食材をすべて除去すると、食事の選択肢が極端に狭まり、栄養バランスを崩すリスクがあります。
2.陰性でも症状が出ることがある(IgE以外の反応)
・食物アレルギーの免疫反応は、IgE抗体が関与するものだけではありません。IgEが関与しない免疫反応(非IgE依存性)によってアレルギー症状が出ている場合、Ig E抗体では「陰性」と出てしまいます。
・検査結果が陰性だからといって、「食物アレルギーではない」と断定することはできません。
・リンパ球反応検査まで実施することで、IgE以外の反応を検出できる場合もあります。
アレルギー検査の正しい活用法
獣医学的に、食物アレルギーの血液検査は、あくまで「補助的な検査」として活用されます。
※検査結果は、「その食材に反応する可能性」を示す情報として受け止め、決して「アレルギーの原因」 と決めつけないことが重要です。
食物アレルギー診断に必要な除去食試験とは
現在、獣医学的に最も信頼性が高いとされ、食物アレルギーの確定診断に不可欠なのが除去食試験(Elimination Diet Trial)です。
これは、アレルギーの原因となっている可能性のある食材を食事からすべて取り除き、症状が改善するかどうかを確認する、非常にシンプルかつ強力な診断法です。
除去食試験の4つのステップ
ステップ1:除去食の選定と開始
除去食試験の成功は、「これまで食べたことのないタンパク質」を選ぶことに尽きます。またはアレルギー検査の結果をもとに、食材の選定を行います。
獣医師と相談し、愛犬・愛猫に最適な除去食(療法食)を選びましょう。
ステップ2:徹底した管理(最低8週間)
除去食試験の期間中(通常最低8週間)、飼い主様の徹底した協力が不可欠です。
| 許可されるもの | 厳禁なもの |
| 獣医師が指示した除去食 | おやつ、ガム、サプリメント |
| 獣医師が指示した水 | 人間の食べ物(一口でもNG) |
| 獣医師が指示した投薬 | 味付きの歯磨きペースト、薬を包むチーズなど |
| ノミ・ダニ予防薬 |
「一口だけなら大丈夫だろう」という油断が、試験を失敗に終わらせます。特に、薬を飲ませる際に使うチーズや、ご褒美として与えるおやつなど、除去食以外のものは一切与えてはいけないという強い意志が必要です。
ステップ3:症状の評価
除去食を開始してから、かゆみや皮膚の状態が改善するかを注意深く観察し、評価します。
症状が改善すれば、食物アレルギーの可能性が非常に高くなります。通常、4〜8週間で症状の改善が見られることが多いです。
ステップ4:食物負荷試験(確定診断)
症状が改善したことを確認したら、いよいよ確定診断のための最終ステップ、食物負荷試験を行います。
これは、「症状が改善した状態で、元のフードや特定の食材を再び食べさせてみる」という試験です。
この負荷試験は、愛犬・愛猫に一時的にかゆみを再発させるリスクがあるため、必ず獣医師の指導のもとで行ってください。
除去食試験を成功させるための3つのポイント
除去食試験は、飼い主様にとって根気と努力が必要な診断プロセスです。成功させるために、以下の3つのポイントを心に留めておいてください。
1:家族全員の意識統一
同居のご家族全員が、除去食試験の重要性を理解し、「除去食以外のものは一切与えない」というルールを徹底することが最も重要です。特に小さなお子様がいるご家庭では、誤って食べ物を与えてしまわないよう、細心の注意を払う必要があります。
2:獣医師との連携と記録
試験期間中は、皮膚の状態や行動の変化を細かく記録し、定期的に獣医師に報告しましょう。症状の改善が見られない場合、それは食物アレルギーではない可能性、あるいは除去食の選定が適切でなかった可能性を示唆します。獣医師と相談しながら、次のステップを検討することが大切です。
3:アトピーとの併発を疑う
食物アレルギーを持つ動物の多くは、環境アレルゲンに対するアトピー性皮膚炎を併発していることが少なくありません。
除去食試験で食物アレルギーが確定しても、かゆみが完全にゼロにならない場合は、アトピー性皮膚炎の治療(内服薬、スキンケアなど)を並行して行う必要があります。食物アレルギーの治療は、皮膚病治療の一部であり、すべてではないことを理解しておきましょう。
まとめ
食物アレルギーの血液検査は、飼い主様の不安を和らげ、診断の糸口を見つけるための貴重なヒントを与えてくれます。しかし、その結果に振り回されることなく、除去食試験というプロセスを踏むことが、愛犬・愛猫の本当の原因を突き止め、慢性的な痒みから解放するための唯一の道です。
時間はかかりますが、このプロセスを乗り越えることで、愛する家族に最適な食事と、快適な生活を取り戻すことができます。諦めずに、獣医師と二人三脚で、食物アレルギーを正しく理解して、向き合っていきましょう。
皮膚と耳専門 ヒフカフェ動物病院
獣医師 小林真也
フリースティッチのイベントに参加します!特別セミナーもあります。
2025年12月6日土曜日
場所;吉見運動公園(埼玉県比企郡吉見町)
詳細は:https://www.freestitch.jp/meetup/dogs/retriever
こんにちは!今年のフリースティッチのオフ会に参加することになりました。当日はhiffcafe tamagawaの獣医師、小林が愛犬の健康管理に欠かせない「耳」と「アレルギー」をテーマに特別セミナーを開催します。レトリバーオーナー様が抱えることの多いお悩みを解決し、愛犬との生活をより豊かにするための専門知識と実践的なケア方法を学べる貴重な機会です。この機会に、愛犬の健康を守るための知識をアップデートしましょう。
セミナー1:愛犬の『耳の健康』についてのお話し
(30分 ステージセミナー)
早期発見が愛犬の健康を守る第一歩
愛犬のトラブルの中でも、特に発生頻度が高く、放置すると重症化しやすいのが「耳」のトラブルです。レトリバーのような垂れ耳の犬種は、構造上、トラブルのリスクが高いと言われています。
このステージセミナーでは、愛犬の耳の構造やトラブルが起こるメカニズムといった基礎知識を分かりやすく解説します。耳の赤み、嫌なにおい、頻繁に耳を掻くといったサインは、大きなトラブルの予兆かもしれません。セミナーでは、トラブルの原因や、自宅でできる早期発見のポイントを具体的にご紹介します。
セミナー2:お家で実践!愛犬のお耳ケア
(45分 フィールドセミナー)
獣医師と一緒に愛犬の耳をチェック!実践的なケアを学ぶ
実践編として、実際に【オトスコープ】を使い、ご参加犬のお耳の中をチェックします。普段見ることのできない耳の内部を獣医師と一緒に確認し、その子に合ったお手入れ方法や注意点について具体的なアドバイスをもらえる貴重な機会です。
また、自宅でできる耳のケア方法を、初級編から中級編まで実践方式で丁寧に指導。さらに、病院で行う専門的な耳洗浄についても紹介します。
セミナー3:愛犬の『アレルギー』についてのお話し
(30分 ステージセミナー)
意外と身近な「アレルギー」を正しく理解する
レトリバー種は、皮膚疾患や食物アレルギーの傾向を持つ子が多いと言われています。このセミナーでは、「アレルギーって何?」「なぜ起こるの?」といった根本的な疑問に答えます。
アレルギーのメカニズム、皮膚炎や消化器症状などの影響、そして予防法や症状が出た際の適切なホームケア方法など、愛犬のQOL(生活の質)に大きく関わる重要な知識を学べます。
現在症状がないオーナー様も、将来に備えて正しい知識を蓄え、愛犬のためにアレルギーについてきちんと理解を深めましょう。
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獣医師 小林真也