大田区、目黒区、世田谷区、川崎市エリアの皮膚と耳専門の動物病院です。カフェトリミングサロンを併設しています

東京都大田区田園調布1-61-10

TEL.03-6459-7555

診療時間
10:00-18:30 -

※月曜はカフェのテイクアウト営業のみ
休診日:月曜  ※日・祝日診療可 ※完全予約制

耳を振る、頭を傾ける… 中耳炎・内耳炎の恐ろしいサイン!

1.いつもの「かゆみ」とは違う、危険なサイン

 

愛犬や愛猫が耳を振ったり、後ろ足で耳を掻いたりする姿は、見慣れた光景かもしれません。多くの場合、それは外耳炎という耳の入り口付近の炎症が原因です。

しかし、その症状が「かゆみ」の範疇を超え、「頭を傾ける」「まっすぐ歩けない」といった神経症状に発展した場合、それは耳の奥深く、中耳や内耳にまで炎症が及んでいる中耳炎・内耳炎のサインかもしれません。

中耳炎や内耳炎は、単なる皮膚病ではなく、平衡感覚や聴覚を司る重要な器官の病気です。放置すると、重篤な神経症状や永続的な障害につながる恐れがあります。

見過ごされがちな中耳炎・内耳炎の初期症状、確定診断の重要性、そして治療法について詳しく解説します。

 

2.耳の構造を知る:外耳・中耳・内耳の違い

 

中耳炎・内耳炎の恐ろしさを理解するためには、まず耳の構造を理解することが重要です。耳は大きく分けて3つの部分から成り立っています。

 

部位 構造 主な機能 関連する主な病気
外耳 耳介から鼓膜までの耳道 音を集める 外耳炎(最も一般的)
中耳 鼓膜の奥にある空洞(鼓室胞) 音を増幅し内耳に伝える 中耳炎
内耳 蝸牛(聴覚)と前庭(平衡感覚) 聴覚と平衡感覚を司る 内耳炎、前庭疾患

 

外耳炎から中耳炎への進行

犬や猫の中耳炎のほとんどは、慢性的な外耳炎が原因で起こります。

外耳炎が長期間続くと、耳道の炎症や感染が鼓膜を破り、その奥にある中耳の空洞(鼓室胞)にまで広がってしまいます。中耳は骨に囲まれているため、一度炎症が起こると薬が届きにくく、治りにくいのが特徴です。

内耳炎の重篤な影響

さらに炎症が奥の内耳にまで及ぶと、内耳にある前庭(ぜんてい)という平衡感覚を司る器官が障害を受けます。これが内耳炎であり、重篤な神経症状を引き起こす原因となります。

 

3.見逃してはいけない!中耳炎・内耳炎のサイン

中耳炎・内耳炎の症状は、耳の痛みや外耳炎の症状に加えて、神経症状が現れることが最大の特徴です。

 

中耳炎で現れる可能性のある症状

中耳炎は、外耳炎の症状に隠れて見過ごされがちですが、以下のようなサインが見られます。

 

  • 耳の痛み:耳を触られるのを極端に嫌がる、食事中に口を開けるのをためらう。
  • 聴力低下:呼びかけへの反応が鈍くなる。
  • 顔面神経麻痺:中耳の近くを通る顔面神経が炎症で圧迫され、まぶたが閉じない、唇が垂れる、よだれが出るなどの症状が現れることがあります。

 

内耳炎で現れる「恐ろしいサイン」(前庭疾患)

内耳炎が起こると、平衡感覚を失い、以下のような前庭疾患の症状が現れます。

 

症状   説明
斜頚   頭が常に片側に傾いた状態になる。
旋回運動   常に同じ方向にぐるぐる回るように歩く。
眼振   意思とは関係なく眼球が小刻みに揺れる。
運動失調   まっすぐ歩けず、立とうとしても倒れてしまう。
嘔吐   平衡感覚の異常による乗り物酔いのような状態。

 

これらの症状は、「かゆいから頭を振っている」というレベルではなく、「平衡感覚が麻痺している」状態を示しています。特に急に発症した場合、飼い主様は脳の病気ではないかと非常に心配されますが、内耳炎が原因の前庭疾患の可能性が高いです。

 

4.なぜCT・MRIが必要なのか

「耳の病気なら、耳を覗けばわかるのでは?」と思われるかもしれませんが、中耳炎・内耳炎の診断は簡単ではありません。

・鼓膜の奥は「見えない」

外耳炎の診断に使われる耳鏡(オトスコープ)では、鼓膜の奥にある中耳や内耳を直接観察することはできません。また、中耳の炎症は骨に囲まれた空洞内で起こるため、通常のレントゲン検査でも詳細な状態を把握するのは困難です。

 

・確定診断に必要なCT・MRI検査

中耳炎・内耳炎の確定診断と、炎症の広がり、そして治療方針を決定するために最も重要なのが、CTMRIといった画像診断です。

 

検査方法  特徴  診断における役割
CT検査 骨の構造(鼓室胞)の評価  中耳炎による鼓室胞内の液貯留や骨の肥厚を明確に捉える。
MRI検査 軟部組織(神経、脳)の評価  内耳や脳への炎症の波及、腫瘍の有無などを確認する。
オトスコープ 鼓膜の状態を詳細に観察  鼓膜の穿孔や中耳からの排泄物の有無を確認し、中耳洗浄に用いる。

 

※特に、短頭種(フレンチブルドッグ、パグなど)は、生まれつき耳道が狭く、中耳炎を併発しやすい傾向があるため、CT検査による診断が強く推奨されます。

 

5.治療と予後:長期的なアプローチが必要

中耳炎・内耳炎の治療は、外耳炎に比べて長期にわたる長期的なアプローチが必要です。

 

治療の基本

  • 徹底的な洗浄と投薬:ビデオオトスコープを用いて鼓膜の奥の中耳腔を洗浄し、炎症を抑えます。その後、CT/MRIの結果に基づいて選択された抗生物質や抗炎症薬を、数週間から数ヶ月にわたって投与します。
  • 原因疾患の治療:中耳炎の根本原因がアレルギーや内分泌疾患にある場合は、それらの治療も並行して行います。

 

外科的治療

内科治療に反応しない慢性的な中耳炎や、鼓室胞内にポリープや腫瘍が疑われる場合は、鼓室胞切開術といった外科手術が必要になることがあります。これは、鼓室胞の骨の一部を開けて、内部の炎症産物や病変を直接除去する手術です。

 

予後について

中耳炎・内耳炎は、早期に適切な診断と治療を行えば、多くの場合、命に関わることはありません。しかし、内耳炎による神経症状(斜頚、ふらつき)は、炎症が治まっても完全に元に戻らないことがあります。

  • 斜頚:多くの場合、改善しますが、頭の傾きがわずかに残る(後遺症)ことがあります。
  • 聴力:内耳の損傷が重度の場合、聴力は回復しない可能性があります。

 

重要なのは、「耳を振る」という初期サインを見逃さず「頭を傾ける」いう神経症状が現れたら、画像診断を検討することです。

 

6.まとめ

「耳を振る、頭を傾ける」という行動は、単なるかゆみではなく、中耳炎・内耳炎という深刻な病気のサインである可能性があります。

特に、慢性的な外耳炎を繰り返している、あるいは急に平衡感覚を失ったような症状が見られた場合は、単なる耳の洗浄や点耳薬の治療では不十分です。

CTMRIによる正確な診断の重要性を理解し、専門的な治療を受けられる獣医師に相談することも検討しましょう。

 

皮膚と耳専門 ヒフカフェ動物病院

獣医師 小林真也

Information

耳を振る、頭を傾ける… 中耳炎・内耳炎の恐ろしいサイン!

1.いつもの「かゆみ」とは違う、危険なサイン

 

愛犬や愛猫が耳を振ったり、後ろ足で耳を掻いたりする姿は、見慣れた光景かもしれません。多くの場合、それは外耳炎という耳の入り口付近の炎症が原因です。

しかし、その症状が「かゆみ」の範疇を超え、「頭を傾ける」「まっすぐ歩けない」といった神経症状に発展した場合、それは耳の奥深く、中耳や内耳にまで炎症が及んでいる中耳炎・内耳炎のサインかもしれません。

中耳炎や内耳炎は、単なる皮膚病ではなく、平衡感覚や聴覚を司る重要な器官の病気です。放置すると、重篤な神経症状や永続的な障害につながる恐れがあります。

見過ごされがちな中耳炎・内耳炎の初期症状、確定診断の重要性、そして治療法について詳しく解説します。

 

2.耳の構造を知る:外耳・中耳・内耳の違い

 

中耳炎・内耳炎の恐ろしさを理解するためには、まず耳の構造を理解することが重要です。耳は大きく分けて3つの部分から成り立っています。

 

部位 構造 主な機能 関連する主な病気
外耳 耳介から鼓膜までの耳道 音を集める 外耳炎(最も一般的)
中耳 鼓膜の奥にある空洞(鼓室胞) 音を増幅し内耳に伝える 中耳炎
内耳 蝸牛(聴覚)と前庭(平衡感覚) 聴覚と平衡感覚を司る 内耳炎、前庭疾患

 

外耳炎から中耳炎への進行

犬や猫の中耳炎のほとんどは、慢性的な外耳炎が原因で起こります。

外耳炎が長期間続くと、耳道の炎症や感染が鼓膜を破り、その奥にある中耳の空洞(鼓室胞)にまで広がってしまいます。中耳は骨に囲まれているため、一度炎症が起こると薬が届きにくく、治りにくいのが特徴です。

内耳炎の重篤な影響

さらに炎症が奥の内耳にまで及ぶと、内耳にある前庭(ぜんてい)という平衡感覚を司る器官が障害を受けます。これが内耳炎であり、重篤な神経症状を引き起こす原因となります。

 

3.見逃してはいけない!中耳炎・内耳炎のサイン

中耳炎・内耳炎の症状は、耳の痛みや外耳炎の症状に加えて、神経症状が現れることが最大の特徴です。

 

中耳炎で現れる可能性のある症状

中耳炎は、外耳炎の症状に隠れて見過ごされがちですが、以下のようなサインが見られます。

 

  • 耳の痛み:耳を触られるのを極端に嫌がる、食事中に口を開けるのをためらう。
  • 聴力低下:呼びかけへの反応が鈍くなる。
  • 顔面神経麻痺:中耳の近くを通る顔面神経が炎症で圧迫され、まぶたが閉じない、唇が垂れる、よだれが出るなどの症状が現れることがあります。

 

内耳炎で現れる「恐ろしいサイン」(前庭疾患)

内耳炎が起こると、平衡感覚を失い、以下のような前庭疾患の症状が現れます。

 

症状   説明
斜頚   頭が常に片側に傾いた状態になる。
旋回運動   常に同じ方向にぐるぐる回るように歩く。
眼振   意思とは関係なく眼球が小刻みに揺れる。
運動失調   まっすぐ歩けず、立とうとしても倒れてしまう。
嘔吐   平衡感覚の異常による乗り物酔いのような状態。

 

これらの症状は、「かゆいから頭を振っている」というレベルではなく、「平衡感覚が麻痺している」状態を示しています。特に急に発症した場合、飼い主様は脳の病気ではないかと非常に心配されますが、内耳炎が原因の前庭疾患の可能性が高いです。

 

4.なぜCT・MRIが必要なのか

「耳の病気なら、耳を覗けばわかるのでは?」と思われるかもしれませんが、中耳炎・内耳炎の診断は簡単ではありません。

・鼓膜の奥は「見えない」

外耳炎の診断に使われる耳鏡(オトスコープ)では、鼓膜の奥にある中耳や内耳を直接観察することはできません。また、中耳の炎症は骨に囲まれた空洞内で起こるため、通常のレントゲン検査でも詳細な状態を把握するのは困難です。

 

・確定診断に必要なCT・MRI検査

中耳炎・内耳炎の確定診断と、炎症の広がり、そして治療方針を決定するために最も重要なのが、CTMRIといった画像診断です。

 

検査方法  特徴  診断における役割
CT検査 骨の構造(鼓室胞)の評価  中耳炎による鼓室胞内の液貯留や骨の肥厚を明確に捉える。
MRI検査 軟部組織(神経、脳)の評価  内耳や脳への炎症の波及、腫瘍の有無などを確認する。
オトスコープ 鼓膜の状態を詳細に観察  鼓膜の穿孔や中耳からの排泄物の有無を確認し、中耳洗浄に用いる。

 

※特に、短頭種(フレンチブルドッグ、パグなど)は、生まれつき耳道が狭く、中耳炎を併発しやすい傾向があるため、CT検査による診断が強く推奨されます。

 

5.治療と予後:長期的なアプローチが必要

中耳炎・内耳炎の治療は、外耳炎に比べて長期にわたる長期的なアプローチが必要です。

 

治療の基本

  • 徹底的な洗浄と投薬:ビデオオトスコープを用いて鼓膜の奥の中耳腔を洗浄し、炎症を抑えます。その後、CT/MRIの結果に基づいて選択された抗生物質や抗炎症薬を、数週間から数ヶ月にわたって投与します。
  • 原因疾患の治療:中耳炎の根本原因がアレルギーや内分泌疾患にある場合は、それらの治療も並行して行います。

 

外科的治療

内科治療に反応しない慢性的な中耳炎や、鼓室胞内にポリープや腫瘍が疑われる場合は、鼓室胞切開術といった外科手術が必要になることがあります。これは、鼓室胞の骨の一部を開けて、内部の炎症産物や病変を直接除去する手術です。

 

予後について

中耳炎・内耳炎は、早期に適切な診断と治療を行えば、多くの場合、命に関わることはありません。しかし、内耳炎による神経症状(斜頚、ふらつき)は、炎症が治まっても完全に元に戻らないことがあります。

  • 斜頚:多くの場合、改善しますが、頭の傾きがわずかに残る(後遺症)ことがあります。
  • 聴力:内耳の損傷が重度の場合、聴力は回復しない可能性があります。

 

重要なのは、「耳を振る」という初期サインを見逃さず「頭を傾ける」いう神経症状が現れたら、画像診断を検討することです。

 

6.まとめ

「耳を振る、頭を傾ける」という行動は、単なるかゆみではなく、中耳炎・内耳炎という深刻な病気のサインである可能性があります。

特に、慢性的な外耳炎を繰り返している、あるいは急に平衡感覚を失ったような症状が見られた場合は、単なる耳の洗浄や点耳薬の治療では不十分です。

CTMRIによる正確な診断の重要性を理解し、専門的な治療を受けられる獣医師に相談することも検討しましょう。

 

皮膚と耳専門 ヒフカフェ動物病院

獣医師 小林真也