大田区、目黒区、世田谷区、川崎市エリアの皮膚と耳専門の動物病院です。カフェトリミングサロンを併設しています

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月: 2025年12月

食物アレルギーとは?:アレルギー検査の結果に左右されずに、知っておくべきこと!!

食物アレルギーが痒みの原因??

 

治らないかゆみの原因とは?

愛犬や愛猫が、体を掻きむしる姿を見るのは本当につらいと思います。動物病院で「アレルギーかもしれません」と言われ、アレルギー検査を受けた経験のある飼い主様も多いのではないでしょうか。

残念ながら、「検査結果=食物アレルギーの確定」ではないという事実も知っておく必要があります。

動物の皮膚科・耳科を専門とする獣医師の視点から、食物アレルギーの診断における血液検査の限界と、信頼性の高い診断法である「除去食試験」の重要性について、詳しく解説します。

 

「食物アレルギー」の定義と症状

皮膚病の原因は一つではない

 

犬や猫の皮膚病の原因は多岐にわたります。

1.アトピー性皮膚炎(環境アレルゲン):花粉、ハウスダストマイトなど、環境中の物質に対するアレルギー。

2.ノミ・ダニ:ノミの唾液や疥癬などの外部寄生虫によるアレルギーや皮膚炎。

3.細菌・真菌感染:マラセチアやブドウ球菌などによる感染症。

4.食物アレルギー:特定の食べ物に含まれるタンパク質に対する免疫の過剰反応。

食物アレルギーが原因で皮膚炎を起こしているケースは、皮膚病全体の約10%程度と言われています。つまり、食物アレルギーを疑う前に、他の原因(特にアトピーや感染症)をしっかりと除外することが重要です。

食物アレルギーの主な症状

食物アレルギーの症状は、主に強いかゆみとして現れます。

  • 体の特定部位のかゆみ:顔面、耳、足先、脇、内股など。
  • 外耳炎の再発:慢性的に外耳炎を繰り返す場合、食物アレルギーが関与している可能性が高いです。
  • 消化器症状:下痢や嘔吐を伴うこともありますが、皮膚症状のみの場合も多くあります。

 

アレルギー検査の実際

当院で行う、食物アレルギーの血液検査は、特定の食材に対するアレルゲン特異的IgE抗体(I型アレルギーリンパ球反応試験(Ⅳ型アレルギー)を測定するものです。

 

アレルギー検査が「確定診断」にならない理由

  1. 陽性でも症状が出ないことがある(感作とアレルギーは別)

・検査で「陽性」と出た食材でも、実際に食べさせても症状が出ない動物は多くいます。これは、免疫システムがその食材を認識(感作)しているだけで、過剰な反応(アレルギー)を起こしていないためです。

・検査結果だけで陽性食材をすべて除去すると、食事の選択肢が極端に狭まり、栄養バランスを崩すリスクがあります。

 

2.陰性でも症状が出ることがある(IgE以外の反応)

・食物アレルギーの免疫反応は、IgE抗体が関与するものだけではありません。IgEが関与しない免疫反応(非IgE依存性)によってアレルギー症状が出ている場合、Ig E抗体では「陰性」と出てしまいます。

・検査結果が陰性だからといって、「食物アレルギーではない」と断定することはできません。

・リンパ球反応検査まで実施することで、IgE以外の反応を検出できる場合もあります。

 

アレルギー検査の正しい活用法

獣医学的に、食物アレルギーの血液検査は、あくまで「補助的な検査」として活用されます。

  • 除去食試験のヒント:陽性反応が出た食材を参考に、除去食試験で避けるべき食材の候補を絞り込む。

※検査結果は、「その食材に反応する可能性」を示す情報として受け止め、決して「アレルギーの原因」 と決めつけないことが重要です。

 

食物アレルギー診断に必要な除去食試験とは

現在、獣医学的に最も信頼性が高いとされ、食物アレルギーの確定診断に不可欠なのが除去食試験(Elimination Diet Trial)です。

これは、アレルギーの原因となっている可能性のある食材を食事からすべて取り除き、症状が改善するかどうかを確認する、非常にシンプルかつ強力な診断法です。

 

除去食試験の4つのステップ

ステップ1:除去食の選定と開始

除去食試験の成功は、「これまで食べたことのないタンパク質」を選ぶことに尽きます。またはアレルギー検査の結果をもとに、食材の選定を行います。

  • 新しいタンパク質源:鹿肉、魚、アヒル、昆虫など、普段食べていないタンパク質源を含むフードを選びます。
  • 加水分解タンパク:アレルゲンとなるタンパク質を、免疫が反応しないほど細かく分解したフード(加水分解食)も非常に有効です。
  • 手作り食:獣医師の指導のもと、厳選した食材のみを使った手作り食も選択肢に入ります。

獣医師と相談し、愛犬・愛猫に最適な除去食(療法食)を選びましょう。

 

ステップ2:徹底した管理(最低8週間)

除去食試験の期間中(通常最低8週間)、飼い主様の徹底した協力が不可欠です。

 

許可されるもの   厳禁なもの
獣医師が指示した除去食   おやつ、ガム、サプリメント
獣医師が指示した水   人間の食べ物(一口でもNG)
獣医師が指示した投薬   味付きの歯磨きペースト、薬を包むチーズなど
ノミ・ダニ予防薬

 

「一口だけなら大丈夫だろう」という油断が、試験を失敗に終わらせます。特に、薬を飲ませる際に使うチーズや、ご褒美として与えるおやつなど、除去食以外のものは一切与えてはいけないという強い意志が必要です。

 

ステップ3:症状の評価

除去食を開始してから、かゆみや皮膚の状態が改善するかを注意深く観察し、評価します。

 

  • かゆみスコア:掻く回数や強さを毎日記録する。
  • 写真記録:皮膚の赤みや脱毛部位を定期的に撮影する。

症状が改善すれば、食物アレルギーの可能性が非常に高くなります。通常、4〜8週間で症状の改善が見られることが多いです。

 

ステップ4:食物負荷試験(確定診断)

症状が改善したことを確認したら、いよいよ確定診断のための最終ステップ、食物負荷試験を行います。

これは、「症状が改善した状態で、元のフードや特定の食材を再び食べさせてみる」という試験です。

 

  • 負荷試験の目的:元の食事に戻して症状が再発すれば、「食物アレルギー」であると確定診断されます。
  • 再発までの期間:多くの場合、負荷試験開始後数時間から2週間以内に症状が再発します。

この負荷試験は、愛犬・愛猫に一時的にかゆみを再発させるリスクがあるため、必ず獣医師の指導のもとで行ってください。

 

除去食試験を成功させるための3つのポイント

除去食試験は、飼い主様にとって根気と努力が必要な診断プロセスです。成功させるために、以下の3つのポイントを心に留めておいてください。

1:家族全員の意識統一

同居のご家族全員が、除去食試験の重要性を理解し、「除去食以外のものは一切与えない」というルールを徹底することが最も重要です。特に小さなお子様がいるご家庭では、誤って食べ物を与えてしまわないよう、細心の注意を払う必要があります。

 

2:獣医師との連携と記録

試験期間中は、皮膚の状態や行動の変化を細かく記録し、定期的に獣医師に報告しましょう。症状の改善が見られない場合、それは食物アレルギーではない可能性、あるいは除去食の選定が適切でなかった可能性を示唆します。獣医師と相談しながら、次のステップを検討することが大切です。

 

3:アトピーとの併発を疑う

食物アレルギーを持つ動物の多くは、環境アレルゲンに対するアトピー性皮膚炎を併発していることが少なくありません。

除去食試験で食物アレルギーが確定しても、かゆみが完全にゼロにならない場合は、アトピー性皮膚炎の治療(内服薬、スキンケアなど)を並行して行う必要があります。食物アレルギーの治療は、皮膚病治療の一部であり、すべてではないことを理解しておきましょう。

 

まとめ

食物アレルギーの血液検査は、飼い主様の不安を和らげ、診断の糸口を見つけるための貴重なヒントを与えてくれます。しかし、その結果に振り回されることなく、除去食試験というプロセスを踏むことが、愛犬・愛猫の本当の原因を突き止め、慢性的な痒みから解放するための唯一の道です。

時間はかかりますが、このプロセスを乗り越えることで、愛する家族に最適な食事と、快適な生活を取り戻すことができます。諦めずに、獣医師と二人三脚で、食物アレルギーを正しく理解して、向き合っていきましょう。

 

皮膚と耳専門 ヒフカフェ動物病院

獣医師 小林真也

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